むかしむかし

2時間前の僕は。
炊飯釜から保温釜に炊けた飯を移し替えている。
昇り立つ湯気が顔を覆う。


このシュチュエーションは、子供のころにさんざ聞き飽きたアレだ。
絵本にあるだろう、『うらしま たろう』。


あれに出てくる玉手箱、もしアレが炊飯器であったら。

りゅうぐうからもどったうらしまは こうきしんからソレをあけてしまいました
するとどうでしょう おいしそうなごはんがたけているではありませんか
そのご うらしまはおいしくたのしくくらしましたとさ

ハッピーエンドになってしまった。
改めて考えてみよう。


・うらしまはカメさんを助けた
これは瓶(かめ)産業を飛躍的に発展させたということではないだろうか。
うらしまの開発した技術によって、多くのカメ工場が救われる。
・カメに連れられ海へ行く
海は社会のメタファー。
そして竜宮城へたどり着くのだが、コレは大手企業にヘッドハンティングされたということだろう。
乙姫と一緒に豪華な料理をたらふく食べ、魚達の舞うのを見ている。
乙姫は上司(社長だろうか)、料理は給料、魚は労働者、そして龍宮城とは龍の如く煙昇り立つ工場。
つまり、うらしまは企業の工場で大役をまかされたのだ。
・でも もう 家に かえらなくては なりません。
どんどん出世していったのはいいものの、役職の重みに耐えきれなくなり、元のカメ工場へ戻りたい、と社長(乙姫)に言う。
「あなたを失うのは残念だ」と社長(乙姫)、退職祝いをうらしまに渡す。
そう、ここで登場するのが玉手箱、即ち炊飯器だ。
もちろん退職金もいただいたが、新型の炊飯器(玉手箱)ももらう。
「未だ試作段階であるので、記念としてお受け取り頂き、実際に使用するのは控えていただきたい」と社長(乙姫)。
・ところが はまべの ようすはすっかり かわって いました。
残念なことに、うらしまが戻った時には新たな容器の登場で再びカメ産業に危機が訪れ、ほとんどの工場がつぶれていた。
うらしまの居た工場もつぶれていた。
実家に帰ると、末期癌の母。
うらしまは大企業で浮かれて自分を支えていたものに目を向けなかったことを激しく後悔し、わが身を呪った。
悲しさに打ちひしがれ腹が減ったうらしまは、もらった炊飯器で米を炊いて泣き泣き白い飯を頬張った。
そして一晩苦悩した挙句、どっと老け込んだように、白髪だらけの皺だらけ。
・たろうは つる の 


炊飯器の存在感のなさ・・・。


炊飯器の湯気を活かしたかったのでこうしたが・・・。


・・・湯気を捨てよう。



悲しさに打ちひしがれ腹が減ったうらしまは、もらった炊飯器で飯を炊く。
が、炊飯器は煙をあげて壊れてしまう。
全てを失ったうらしまは、一晩苦悩した挙句、どっと老け込んだように白髪だらけの皺だらけ。
・たろうは つる の すがたに なって とんでいったのです。
このまま打ちひしがれていてもしょうがない、と思ったうらしまは、社会の道具(TOOL。つーる)として再就職を目指し、再び人生を歩むのだった。

・・・。



おしまい